フォーレ ピアノ四重奏曲第1番ハ短調Op.15

近代フランスの作曲家・ガブリエル・フォーレ(1845年 – 1924年)が1879年に完成したピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための室内楽曲。全4楽章からなり、演奏時間は約29分。なお、フォーレのピアノ四重奏曲は2曲って、第1番の初演から7年後の1887年に第2番が初演されている。

フォーレの音楽の魅力

教会オルガニスト出身の敬虔なイメージのあるフォーレだが、実際にはサロンを好み、歳をとってからも多くの恋愛に情熱を傾けていたとか。だからか、その音楽にも情感表現が色濃く反映されていて、喜び、哀しみ、諦めといった喜怒哀楽の繊細な移ろいが表現されているのが大きな魅力。

フォーレの作風の変遷

【初期】初期はフォーレ30代の終わりまで。この時期に書かれたヴァイオリン・ソナタ第1番(1876)、ピアノ四重奏曲第1番(1879)、エレジー(1883)、子守歌(1879)、ロマンス変ロ短調(1882)は、どれも率直で美しいメロディに恵まれ、演奏回数の多さでも群を抜いています。

【中期】中期はフォーレ40代から50代の終わりまで。この時期の代表作は、レクィエム直前に書かれたピアノ四重奏曲第2番(1886)でしょう。充実した筆致で隅々まで自信のみなぎった傑作です。また、この時期には和声や調性感の探求にも余念が無く、シシリエンヌ(1893)、ロマンスイ長調(1894)、アンダンテ(1897)、チェロのための小品(蝶々)(1897)、シシリエンヌ(1898)といった作品でもそれぞれに工夫が施され、またパリ音楽院の試験のために書かれた、2台のチェロのための初見視奏曲(1897)、ヴァイオリンとピアノのための初見視奏曲(1903)という曲でもフォーレならではの音楽の感触を聴くことができます。

【後期】後期は60代から79歳で亡くなるまで。この時期のフォーレは、聴覚障害に悩まされるようにもなり、音域を絞ったりするようにもなりますが、音楽はさらなる変化を遂げ、スケールの大きさや深い精神性をも感じさせるピアノ五重奏曲第1番(1906)とピアノ五重奏曲第2番(1921)、チェロ・ソナタ第1番(1917)を書き上げる一方、ヴァイオリン・ソナタ第2番(1917)、ピアノ三重奏曲(1923)、セレナード(1908)では簡素で抽象的な中に独自の魅力を示し、チェロ・ソナタ第2番(1921)では流麗な美しさと深い哀しみの両面を見事に表わしてもいました。絶筆となった弦楽四重奏曲(1924)では、ベートーヴェンやバッハへのオマージュともいうべき要素を孕みながら、独自の幽玄な美を響かせているのが印象的です。

フォーレ ピアノ四重奏曲第1番ハ短調Op.15

ロマン派全盛期に生まれ、十二音や無調の時代まで生きたフォーレの作曲期間は約60年の長きに渡り、その作風の変遷も初期・中期・後期に分けて語られることが多いですが、室内楽作品はフォーレが生涯通じて好んでいたジャンルだけあって、どの時期にも優れた作品が書かれているのが特徴。

1876年の夏、友人であるクレール夫妻のサント=アドレスの屋敷において、フォーレはヴァイオリンソナタ第1番を完成させ、新たな室内楽曲に着手。ピアノ四重奏はそれほど一般的ではない形式だったが、独自のものを作り出したいという思いと室内楽ジャンルの刷新を目指して、取り上げたといわれる。

第一楽章:アレグロ・モルト・モデラート、ハ短調、3/4拍子、ソナタ形式。弱拍で打ち鳴らされるピアノの和音に乗って、弦のオクターヴ・ユニゾンで力強く第1主題が提示される。

第2楽章:スケルツォ アレグロ・ヴィヴォ、変ホ長調、6/8拍子。弦のピチカートに乗って、ピアノが軽快な旋律を弾き始める。

第3楽章:アダージョ、ハ短調、2/4拍子、ABABの歌謡形式[3]だが、最後のBをコーダとする三部形式とも考えられる。深い憂愁が漂う楽章。ピアノのゆったりとした和音に支えられて、チェロが暗い情緒を湛えた第1主題を歌い、ヴィオラ、ヴァイオリンがユニゾンで加わってゆく。

第4楽章:アレグロ・モルト、ハ短調、3/4拍子、ソナタ形式。ピアノの3連符による上昇分散和音に乗って、ヴィオラ、チェロ、ヴァイオリンの順に連続的に打ち寄せる波のような第1主題が現れる。

フォーレ ピアノ四重奏曲第1番ハ短調Op.15の名演奏

2013年度第51回レコード・アカデミー賞を受賞したダルベルト、カピュソン兄弟を中心とした室内楽曲全集中の録音。

ダルベルト(p)、R.カピュソン(vn)、コセ(va)、G.カピュソン(vc)<2010>[エラート]現代フランスを代表する4人の奏者によるフォーレ。繊細なニュアンスに満ちた柔軟な歌いまわしと、柔らかく温かい響きや情熱のこもった力強い表現が共存する傑出したもの。

◯ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)

1976年生まれ、仏・シャンベリ出身のヴァイオリニスト。チェリストのゴーティエ・カピュソンは弟。14歳でパリ国立高等音楽院に入学し、ジェラール・プーレらに師事。92年に室内楽、翌年にヴァイオリンのプルミエ・プリを獲得。95年にベルリン芸術アカデミー賞受賞し、トマス・ブランディス、アイザック・スターンほかに師事。98年より2000年まではアバドの招きでグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラのコンサートマスターを務め、ブーレーズら指揮者の元で研鑽を積む。以降、ソリストとしてベルリン・フィルをはじめ世界の主要オーケストラや指揮者と共演、室内楽にも積極的。ルツェルンやヴェルビエ音楽祭の常連でも知られる。

◯ゴーティエ・カピュソン(チェロ)

1981年9月3日生まれ、仏・シャンベリ出身のチェリスト。ヴァイオリン奏者のルノー・カピュソンは兄。5歳よりチェロを始め、パリ音楽院でアニー・コシェ=ザキーヌにチェロ、クリストフ・エジティアーノにピアノを師事。97年に同音楽院で一等賞受賞し、その後フィリップ・ミラーに師事。国内コンクール優勝など受賞を重ね、2001年の仏版グラミー〈ヴィクトワール賞〉にて“2001年の新しき才能”と称される。以降、ソリストとして世界各地で活発な音楽活動を展開し、室内楽にも積極的。著名な音楽祭に出演、主要オーケストラや指揮者と多数共演。2019年に『シューマン:チェロ協奏曲、室内楽作品集』をリリース。

◯ミシェル・ダルベルト(ピアノ)

1955年、パリ生まれ。パリ音楽院でメルルミュテールに師事する。75年、第1回モーツァルト・コンクール第3位入賞とクララ・ハスキル・ピアノ・コンクール優勝で頭角を現し、フランス・ピアノ界のホープとして注目を集めながら意欲的に演奏活動、録音活動を繰り広げるようになった。モーツァルトからシューベルトに至るドイツ系ロマン派音楽とドビュッシーなどのフランス音楽を主なレパートリーとして、高い評価を得ている。

◯ジェラール・コセ(ヴィオラ)

1948年、トゥールーズ生まれ。パリ国立高等音楽院をヴィオラ、室内楽の課程で最優秀成績をおさめ卒業。ソリストとして世界中から称賛を受ける国際的ヴィオラ奏者。1962年ヴィア・ノヴァ弦楽四重奏団の創設メンバーに加わるが、その後フリーとなり、ソロ、室内楽に活躍している。使用楽器は1560年製のガスパロ・ダ・サロ。

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